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ウッドストックへの道
マイケル・ラング Michael Lang(著), 室矢 憲治 (翻訳)
ウッドストック・フェスティバルが開かれたのは1969年、アポロが月に到着した年なので当時私は中学1年だった事になる。47年も前の事なので、当時の記憶は当然ながら霧の中のように不明瞭だが、このウッドストックという言葉は例外のようだ。事柄としては単に40万人とも60万人とも言われる人々が集った巨大なロックフェスに過ぎないのだが、不思議なことに他国の関わり合いのない一中学生の私にも何かしらの自信と高揚感を与えてくれた明確な記憶があるのだ。いったい、その感情とは一体何だったんだろう?この本を読み進めて、少しだけ納得できたような気がする。
著者のマイケル・ラングは当時25歳、4人いるコアメンバーの中でも企画を書き、オペレーション自体もリードした人物。リーダーが25歳という年齢も驚きだが、他のメンバーも当時24歳か27歳の若造だ。なんてこったい、その後50年近く経っても人々の記憶に残るイベントを成し遂げるには経験なんて必須事項ではないようだ。
若いマイケルだが、前年にはマイアミでポップフェスのイベントを実行した経験があり、「愛と平和の」ロックフェスが気分だけでは実行できない事を知っていた。出演バンドとの契約、広告、チケット販売、会場警備、ケータリング、ゴミ対策、トイレ設置等、それらの計画と必要予算計上、そして前提となる運営資金の確保。うん、ここまでは判る。その先が、この本を読んで知った意外な事実だった。
マイケルはここで、(今風に言えば)ベンチャー企業を立ち上げる。企画書を作り、投資家にプレゼンする訳だ。そういう経緯で運営会社であるウッドストック・ベンチャーズ社が誕生する。
コアメンバー4人のうち、二人は投資側の人間となり彼らは演奏会場自体に来ることはなかった(異常事態に対応して来れなかった)し、あくまでメインは投資案件として関ることになる。この辺のバランス感覚がカウンターカルチャ側のマイケル・ラングにも自然とある事が最終的に成功の大きな要因となった点は、著者本人が強調している。
このバランス感覚は投資家と対極のグループ(急進社会活動家、イッピー党など)からの、強硬な要求に対応する際にも遺憾なく発揮されている。「ロックで汚い金儲けをするなら邪魔をする」と恫喝されても彼は驚きはしない。驚き強張る投資家を説得し、彼らがフェス会場で配る「サバイバルマニュアル」の印刷機代として1万ドルを支払うことで、仲間にしてしまうくだりには本当に感服してしまった。
本書にはエピソードが他にも詰めこまれている、もしかしたら適量の数倍かもしれない。最初の候補地での住民反対運動、セキュリティ要員としてNY警官を500人リクルートする件やステージ裏での喧嘩沙汰。多少、読み進めるのには翻訳がスムーズでは無いかもしれないが、読了には大きな価値があるだろう。
最後にステージ上でのエピソード部分を一つだけ記しておこう。本書の出だしと最終頁は両方ともジミー・ヘンドリックスの「星条旗よ永遠なれ」の演奏を描写している。以下に引用する。
ジミヘンの激しい国歌演奏は「戦争に、社会的、人種的差別に加担する人々への激しい抗議であり、と同時にこの社会の至るところにできた亀裂を、今こそ修復すべき時だ、と呼びかけていた」。
この演奏を真近で聞いた時、著者ラングは「人生最良の時」と感じたのだった。
-- 2016/6/14作成 --
