GRV In the groove

Book List 本を紹介します

反人生

反人生

山崎ナオコーラ (著)

表題に引かれて本書を選ぶ。反人生とは何だろう、素朴な疑問で読み進み始めたが率直な小説ではなかった。 何度か読み戻りながら読了し、その後で疑問が湧いて更に数回読み直し、ようやく作家の意図が理解できたような気がする。「気がする」と言ったのは作家は注意深く結論を一つに収斂させないようにしているからだ。

主人公「萩子」は55歳、舞台は20年ほど未来で震災や戦争を世界は経験している。夫を10年以上前になくしているが、穏やかな一人暮らしができる程度の貯金があるので、小さなレストランで働くのは生活のためではない。一緒に働く若い女子「早蕨(さわらび)」に想いを寄せているからだ。

萩子の「人生作り」に対する嫌悪感の表明でこの小説は始まる。「自分はこういう人生をおくってきました、だから満足してます」というような発想を心の底から軽蔑している。そして「人生作り」の対極として萩子が考えているのが「世界を作る」ことだ。
「世界を作る」?ナオコーラ用語は簡単ではないんです。ここでの「世界作り」が意味するのは①ベランダでゴーヤを育てたり②新しいレシピでサンドイッチを作ったりすること。身近な「世界」との一瞬一瞬の関わりあいの方が、「人生」などより余程意味があると言い切る萩子のセリフは奇妙で受け入れがたいが、何かしらリアリティを感じる不思議な世界観だ。

この「だれにも書けない文章」(本書末尾にある作家の目標)は何故か変な具合に記憶に残り、ふとした弾みで思い出すことがある。他の誰にもできない、山崎ナオコーラ特許なのです。

さて、ストーリーに戻ろう。早蕨との心地よい友人関係がしばらく続いた後、早蕨から急に結婚を決意したことを告げられ動揺する。 相手の男と三人で食事をする場面は、ある意味でこの小説のハイライトだ。食事の最後に萩子と早蕨は「人生作り」=ここでは「自分の物語」について、明確に対立する。
「私には物語なんてない」と言う萩子に、早蕨はそれを否定した上で、そんな矛盾を抱えている萩子を好きだと答える。しかし萩子は否定されたことより「好きよ」と告げられたことに安心する。

萩子とは何者だろう。50も半ばになって「人生」に反旗を掲げる女性とは、相当にヤヤコシイ人物だと初めは思った。 だが読み終わるころに気が付いた。人生の終わりが見えてくる頃になったとき、自分の「人生」はどうだったか?との思いは必要以上に重い。人生なんて知らん!と放り出すのは、むしろ相当な胆力の要ることではないか。

作者は結論を出していないし、萩子も最後まで「反人生」をやめることはない。生きること自体が「人生」になる矛盾もそのままだ。何もかも解決してはいないが、いずれ近いうちにひょっこりと「萩子」を思い出すのは確実な気がする。

-- 2016/7/61作成 --




前へ 1 2 3 4 5 6